月まで連れてって

「初期衝動」の記録。楽曲に込めた重力の二面性とAI時代の「憧れ」の座標

「初期衝動」の記録。楽曲に込めた重力の二面性とAI時代の「憧れ」の座標

2026年3月4日

月まで連れてっての制作過程を思い出しながら書いています。

『月まで連れてって』の初期衝動と創作

『月まで連れてって』は、もともと手元に断片があって、それを組み立てていった楽曲ではありません。この曲に関しては、ULALAさんと出会うまで、楽曲のかけらは一つもありませんでした。また、彼女の経歴や歌声も実は聞いたことがなく、たまたま「ギターを始めようと思うので、教えてくれる人を探している」というクリエイティブとは全く関係のないきっかけでした。
彼女も、私が楽曲を創る人間だとは全く知りませんでした。

そんな状況下で直接話をして、実際に彼女の空気や感受性に触れたあとに、彼女の歌っている映像を見せてもらい、声と世界観のベクトルに感動しました。すぐに自然とこの曲のメロディ・言葉・情景の断片が生まれて、一気に組み上がっていった感覚があります。自分の中ではかなり珍しい創作パターンだったと思います。

その後、私の方から複数のデモを(勝手に)送り、「レコーディングの経験は面白いと思うので、もしこの中で歌ってみたい曲があれば教えてください」と伝えました。
そこで彼女が選んでくれたのが、この『月まで連れてって』でした。

重力・AIというキーワード

月に憧れを抱くこの楽曲で、気に入っているキーワードのひとつが「重力」です。

この曲の中で重力には、2種類の作用があります。
ひとつは、引きつけられる魅力としての重力。人や出来事に惹かれる力、そしてそれによって前へ進む速度が上がっていく感覚です。
「重力を味方につけ」という言葉には、その引力を推進力に変えて、より速く、より遠くへ進んでいくイメージを込めています。まさに憧れの力は、“スイングバイ”をさせてくれるものだと思っています。

スイングバイ(Swing-by)とは、惑星や衛星の「引力」と「公転運動」を利用して、探査機などの軌道や速度(加速・減速)を変える宇宙航法。推進燃料を消費せずに速度や進行方向を大きく変更できるため、遠い惑星や深宇宙への探査に不可欠な技術であり、別名「重力アシスト(Gravity Assist)」とも呼ばれる。

もうひとつは、飛び出そうとする気持ちを引き戻す重力。
既存の常識や、周囲の空気、自分の中にある怖さのようなものです。夢や挑戦に向かって踏み出そうとした瞬間に、急に足を重くするものは誰にでもあると思います。
「重力を感じたくない」という言葉には、そうした“邪魔をする重力”が届かないところまで、高く飛んでいきたいという意味を込めています。

また、「AI」という言葉も使ってみたかったキーワードのひとつです。
AIはとても便利で、無駄な失敗を避けながら、最短距離で解決に辿り着くことができます。その一方で、必要な失敗という経験までも避けてしまう可能性があります。結果として、チャレンジの数そのものが減ってしまうこともあるかもしれません。
自分自身にとって本当に手に入れたいものや、心からの憧れ、夢のようなものに対しては、実はテクノロジーはまだまだ無力だと感じています。言語化できてしまうプロセスでは辿り着けない座標にこそ、夢や憧れは存在している気がするからです。だからこそ、それに挑戦する決断は、今まで以上に尊いものに変わっていくのかもしれません。

情報に溢れ、「正解っぽいもの」が常に目の前に並べられている時代ほど、私たちは頭でっかちになり、感覚が鈍り、慎重になってしまいます。特にティーンエイジャーは、感受性が強いぶん、傷つくことにも敏感で、動き出す前にたくさんの情報をインプットしてしまい、立ち止まってしまうこともあるでしょう。
でも本当に大切なのは、その先にある困難を完璧に予測することでも、届くかどうかの確率でもなく、自分自身の心が確かに感じている憧れを無視せずに、一歩を踏み出すことなのだと思います。

そんな勇気ある人を、私は尊敬し、応援したいです。

中野圭造

Keizo Nakano

Songwriter / Guitar

小学4年生の時にビートルズを聴いて感動し、中学生でバックトゥザフューチャーを見てギターをはじめ、高校生でバンドを始めて、サラリーマンをし、起業し、また曲を書き始めました。←今ここ

月まで連れてって ULALA:うらら Archetype

月まで連れてって[Archetype]

15歳のシンガー ULALA によるファーストシングル。彼女にとって初の作品となる本作には、15歳ならではの感受性と透明感が鮮やかに刻まれています。新たな出会いは、ときに創作の原動力となり、強いエネルギーをもたらします。人生には、その瞬間にしか歌えない感情、その瞬間にしか生まれないサウンドがあります。そうした一瞬のきらめきを楽曲として結晶化することの尊さが、この作品には確かに息づいています。

Published On: 2026年3月4日Categories: ColumnTags: