Lost My Heart fender-jaguar

轟音と残響が描く喪失|『Lost My Heart』

轟音と残響が描く喪失|『Lost My Heart』

2026年8月7日

Lost My Heart (feat. Nari) [Archetype]の制作

『Lost My Heart』の原型は、何年も前に初音ミクをボーカルとして制作したデモだった。
当時の僕は、コントロールしきれない感情をただ音にぶつけるように曲を書いていた。完成された作品を目指したというより、その瞬間の衝動をありのまま形にした一曲だった。
時が経つにつれ、「いつかこの曲を、本当に表現したい形でもう一度作り直したい」という思いが少しずつ強くなっていった。

そんなときに出会ったのが、Nariだった。
彼女の歌声には、少女と大人の狭間を漂うような儚さと、静かな反抗心が同居していた。その独特の存在感に触れた瞬間、この曲は彼女のためにあったのかもしれない、と思った。
もともとロックを愛する彼女は、このプロジェクトにすぐ共感してくれた。そして、アニメーション・アーティストとして作品づくりに携わってきた経験もあり、一つひとつの表現に対する向き合い方や美意識、作品に求めるものが驚くほど自然に重なっていった。
だからこそ、この曲は「依頼して歌ってもらった作品」ではなく、「二人で育て上げた作品」になったのだと思う。
かつて感情のままに生まれた一曲は、時間と新たな出会いを経て、『Lost My Heart』として新しい命を宿した。

Lost My Heart fender-jaguar
The Lonleys

The Lonleys

Songwriter

アレンジャー・レコーディングエンジニア。
LONELY RECORDS CEO。ジャンルや国境を越え、世界中のアーティストとのコラボレーションを信条に活動する音楽家。

Lost My Heart

Lost My Heart (feat. Nari) [Archetype]

轟音のギターと深い残響が織りなす音の波。その中を駆け抜けるように、シンプルなメロディが楽曲を導いていく。
シューゲイズの幻想的な空気感をまといながらも、この曲の根底にあるのは60年代ロックやブリットポップから受け継がれた普遍的なソングライティングだ。さらに、オルタナティブロックやグランジの衝動を取り込み、轟音の中を一気に駆け抜けるような疾走感を生み出している。楽曲全体には、夢と現実の境界を漂うような感覚が流れている。深いリバーブに彩られたギターの響きと神秘的なシンセサウンドは、目の前の世界が少しずつ輪郭を失い、光の中へ溶けていくような情景を描き出す。

Nariの歌声は、少女と大人、その狭間を静かに行き来する。どこか気怠く、儚く、それでいて心の奥には小さな反抗心を宿している。そのアンビバレントな魅力が、楽曲に現実と幻想の狭間を漂うような空気を与えている。
“I am you, and you are me.”
分離していたものがひとつになり、やがて消えていく。その先に待っているのは喪失なのか、それとも解放なのか。『Lost My Heart』は、喪失というありふれた言葉の奥に、自我と現実、その境界線が静かに溶けていく瞬間を描いた作品である。その答えは語られない。ただ、轟音の向こう側で、聴き手それぞれが自分自身の「Lost My Heart」を見つけることになるだろう。

Published On: 2026年8月7日Categories: コラム:ライナーノーツTags: